「今日はここにある飲み物しか頼めないんだが…。」
そう言って井上は、四人にメニューリストを差し出す。


「最初の一杯は私が奢るから、好きな物を頼んでいいよ。」


「ありがとうございます。」


井上の優しい気遣いに、満面の笑みを浮かべ、メニューリストを見て悩む四人。





「ねぇねぇ、俺も注文していい?」
「藤堂くんは、自分の売上で飲んでね。」
「ちぇっ…やっぱダメかぁ。」





「注文入るよ。」
井上が呼び寄せたのは、十番隊組長の原田だった。
白いシャツに黒のベスト……この服装は紛れもなく……

「あ、この人は左乃さん。注文はこの人が取ってくれるし、各机に運んできてくれるんだ。」
「榎本さんから聞いたんだけど、外国では”ぼぅい”と言うらしいね。」



「こんばんは。」
「よろしくお願いします。」
が原田に声をかけるが…
「お………おぅ!」
短く返事をしたきり、口を開かない。
オーダーを取ると、足早にカウンターへ戻っていってしまった。


「怒ってたのかな?」
は、心配そうに原田の背を視線で追う。
「何だか動きがぎこちなかった様に思うんですが…。」
原田をずっと観察し、そう言ったのはだった。
そしても同意する。
「それに顔が赤かったんだけど、風邪でもひいてたのかな?」

そのやり取りを聞いていた井上と藤堂が、同時に笑い出した。


「左乃さんはね、女の人が苦手なんだよ。だから接客には向いてないんだ。」
「先程も緊張していたんだよ。」

「テメェら、笑ってんじゃねぇ!!」

カウンターから怒鳴っているものの、離れていれば全く怖くはない。
ウブなヤツだ…と四人は心の中で呟く。








「さてと、じゃあうちの店の従業員を紹介しないとね。」



店内を見回すと、ある一角に目が止まった。



「オメェ、何かこの間より綺麗になったんじゃねぇ?」
「そうかしら?」
「この辺とか、引き締まった感じがするぜ?」
「きゃっ!んもぅ〜新ちゃんったらぁ!」
隣に座る女性の後ろに手を回し、腰を掴んでいる。
躊躇いもなくボディタッチとは…流石は島原の帝王!!
複数の女性に囲まれ、足を組んでソファーに座っていたのは、二番隊組長の永倉新八だった。



「あそこにいるのが永倉新八君。彼はこの店のなんばぁつぅだよ。」
「え、No2!?あんなにエロくて客が取れるんですか?」
思わず口をついて出たの質問に、藤堂が爆笑する。
「確かに客が離れていきそうだけどね。中にはあれがいいっていう客もいるんだよ。」
「へぇ………」
そういうものなのか?と疑問に思いながら、四人は彼を指名する事はなさそうだ…と確信する。







その横を見れば、妙に和んだテーブルを発見する。



「何、お酒が苦手なのかい?」
「ええ、それでこんなお店に来ちゃダメですよね?」
「そんなことないよ。実はわしも酒が駄目でねぇ…
替わりと言っては何だけど、甘い物でも食べないかい?わしが作ってきたんだよ。」

そう言って大福をテーブルに出す大きな男が一人。
この箱館まで土方に付き添い戦い抜き、その後も明治という新時代を生き抜いた隊士島田がいる。

「あれが島田魁さん。あの人は下戸なんだ。」
「彼はかなりの甘党でね、ああやって自分でお菓子を作っては、お客様を持成してくれるんだ。」
「美味しそう……」

甘い物が好きな四人は、少し心が揺れ動いた。







「そして、あっちが……」
と藤堂と井上が視線を送る方を見やれば、一際光り輝く眩しいテーブルがある。
「よく来たね。俺は君と離れている間も、片時も君の事を考えなかった事はないぜ。」
「ホントに?」
「ああ、嘘は言わないよ。」
女性の手を取って、見詰め合いながら、甘い台詞を囁いている。
光を反射させる鮮やかな金髪を靡かせ、バックに薔薇でも飛びかっていそうな
雰囲気を漂わせている彼は、新選組では局長と言われていた。

「うちのとっぷ、近藤勇さんだ。」
「はぁ…トップですか。」
「妙に納得。」
「近藤さんの凄い所は、どんな女性にも優しいって所かな。
見習いたいとは思うんだけどさ、どうも俺には出来ないんだよね。」

いや見習わなくて結構!
むしろそのままの純真な君でいてくれ!!
…と思ったのは、誰の事だか伏せておくことにして。







その隣のテーブルで、ヘルプに付いていた隊士が立ち上がった。
「ハジメさんに、リシャール入ります。」
そうか、あそこには三番隊組長、斎藤一がいるのか…と、自ずと四人の視線が注がれる。


「今日も入ったね、高級ボトル。」
「じゃあ例のアレが出ますね。」
「……………?」


四人には判らないやり取りをする藤堂と井上。
四人の不可解な表情に気付いたのだろう。


「まぁ、見ててごらんよ。すぐに判るからさ♪」
そう言う藤堂の顔は、妙に楽しそうである。






程なくして、斎藤のテーブルにリシャールが運ばれてきた。


「今日はハジメのために奮発しちゃった♪」
「……………………」


斎藤は顔色一つ変えず、リシャールの栓を抜く。
するとそのまま瓶に口を付け、そのまま口に含む。



「え、まさか……」
「あんな高いお酒、一気に飲むの!?」
は息を飲んだ。
「まぁまぁ、見てからのお楽しみだってば♪」
やはり藤堂は楽しそうだ。

一方は、別の予感がしていた。
「まさかとは思うけど……」
さんも、そう思います?」
「だって、危険人物だし……ねぇ?」



の予感は的中した。
斎藤は、そのまま隣の女性の後頭部へ手を回し引き寄せると、
リシャールを口移しで飲ませたのだ。



「………………………!!」
突然の過激な出来事に言葉をなくす四人。
「ハジメさんさぁ、高級ボトル入れてもらうと、その恩返しってアレをやるんだよね。」
「感謝の気持ちを行動で表してる訳だ。」



流石は四人に”気をつけよう 暗い夜道と 斎藤一”と言われただけのことはある。



「うちの店ではシャンパンコールより、ある意味見応えあるイベントになってるんだよ。」


「…………あははは…」


何と言っていいのか返答できなかった四人は、ただ空笑いするより他なかった。












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